直仁の「善き人のための」研究室

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「日本の技術経営に異議あり」を読んで

会社の図書室にある本を読んでは、毎月、図書室のめるまがにブックレビューを載せている。今月は、日本経済新聞出版社の「日本の技術経営に異議あり」である。ISBN978-4-532-13376-4。本当は時間がなくて全体の3分の2しか読めていないが、期限が無いので、途中までの要約にしてしまった。けれども、結構面白いし、学者の書く耳学問的な話に終始する他のMOT本と違い、実際に企業で働く人が社会人大学院生として勉強しながら、その研究成果を書いたものを集めていて、会社を内側から観察して書いているのがなんとなくわかる点が興味深い。もちろん、のこり3分の1も読むつもりだ・・・ 以下、ブックレビュー原稿である。

技術経営(MOT)の本はいろいろあるが、本書は、東京理科大学MOT研究会の教員と社会人大学院生、すなわち、実際に企業で働きながら仕事の外でMOTを研究している人が書いたという点で一読の価値がある。内容を順に紹介する。
まずは、日本の企業経営の特徴は、人的ネットワーク尊重(組織の観点)、資源蓄積尊重(戦略の観点)、継続的安定的取引尊重(取引と分業の観点)とし、これを背景にMOTは蓄積志向型(自社の技術のDNAにこだわる)、分散型(滲み出し的戦略のため、現場に近い部署で実質的に意思決定するボトムアップ型)、横並び型(競合と似る)、セミクローズド型(自前主義+系列企業利用)と分析する。これには光と影がある。影として「戦略なきチマチマ開発」「新規事業開発の幻想」を挙げる。技術蓄積志向のため、蓄積の発展線上に大きな市場が予測できないと苦しむ。苦し紛れに既存事業との距離感を間違う。既存事業との距離が遠ければ開発はうまくいかない。ではどうすればよいか、それは本書を読んでほしい。
 次に、中核技術(コア技術)の認識の重要性とむつかしさであるが、中核技術を「自社で扱う様々な事業において競争優位な技術を生み出す源泉となりうる深い共通の技術、競争優位な技術を「特定の製品開発において競争優位な製品開発に直接的に貢献する技術」と定義する。村田製作所の中核技術は「セラミックスを焼く技術」、セイコーエプソンの中核技術は「超精密機械加工技術」と例示する。一方、セイコーエプソンの「インクジェット技術」は競争優位な技術である。なぜなら、インクジェット技術はプリンタ事業を競争優位に導いたが、液晶パネルは太陽光発電用パネルなどの別事業に参入を試みたが競争優位になってないからである。中核技術は、競争優位技術を生み出す源泉であり、環境影響を受けにくく持続性があり、深耕する価値のある奥深さのある技術であるから、これを的確に認識し、この深耕に資源を投入することが技術経営として重要である。中核技術は事業活動の背後で「いわば密やかに」蓄積されている、地味な存在で、客観的に評価しづらく具体的にイメージされにくい。自社でも認識しづらいのだから、競合他社には真似できず大きな価値がある(当たり前の技術の表現で字面ではわかっても内実は認識できないものだから)。そして中核技術の深耕という技術革新が起きる。中核技術の認識と資源投入による深耕ができている企業が強い企業だと言う。
 研究者と事業との関わりについても述べている。事業活動に必要な能力は、①情報収集力、②他人との協働能力、③折衝力であり、対して研究者の習性は、①正確性の重視、②技術への思い入れ、③柔軟性と協働性の低下である。事業展開には、顧客の顕在、潜在ニーズの引き出しが必要だが、顧客がわざわざニーズやロードマップを示してくれるとすれば、今見えている技術力以外の技術蓄積を感じてくれるかどうかである。技術蓄積を伴った研究者は、いち早く顧客のニーズを引き出すことが可能でニーズの技術的要件への変換が速い。しかし、研究者には上に述べた習性があって、事業部門に必要な能力に相いれないケースが多い。そこで、研究者のフィールドシフトが必要になる。良い例としてJSRのやり方がある。JSRでは技術系大卒者の多くを10年程度まで研究所で研究開発に従事させ、その後、生産や営業に配属、定期的にローテーションする人事制度にしている。技術系営業の大半が技術蓄積を伴った研究開発経験者である。また単に10年後に営業に転職ということではなく、先の研究者の習性を修正すべく、入社3-4年目ぐらいから、元研究者の先輩営業に同行し、顧客へのプレゼンの機会を持つようにするという。こうしたことはひとつの例であって同じようにすればよいとは限らないが、根本的な課題に対する人事上の工夫も全社として考えるヒントにはなると思う。
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